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Industryアーティスト

今の自分にぴったりな1冊に出会える新感覚の本屋「文喫」

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企業名: 文喫 六本木
住所 : 東京都港区六本木6丁目1-20
TEL   : 03-6438-9120 
URL  : https://bunkitsu.jp/

未知の本と出会える本屋「文喫」が2018年に六本木にオープンしました。入場料がかかるという斬新な営業スタイルや選書サービスなど、これまでになかった本屋はオープン以来人気が続いています。店長の伊藤晃さんに新発想の本屋の運営や選書サービス、今後の展望について伺いました。さらに、実際に選書をしているスタッフの皆さまに選書のポイントもお聞きしました。

入場料を支払って入店する新発想の本屋

文喫は「本と出会うための本屋」をコンセプトに、お客様が自分で本を選んで購入することができます。コワーキングスペースやブックカフェと勘違いされることが多いとのことですが、本屋であることを大切にしています。ただし一般的な本屋と異なるのが、入店の際入場料を払うということ。

入場料がかかる本屋という発想に至った背景には相次ぐ本屋の閉店がありました。過去20年で日本全体の本屋は半分ほどになっています。都心部でも本屋は激減。文喫がある六本木周辺でも書店は文喫を含めて3店しかありません。

書籍の利益率が25%と薄利なので、都心では本屋をやっていけないというのが業界全体の声です。しかし、本屋をこれ以上なくしたくない。このような想いで新しい発想の本屋を、を模索した結果、入場料がかかる本屋のビジネスモデルが生まれました。「2017年から入場料を頂く本屋を作ろうと計画して、2018年にオープンしています。『文喫』という店名はスープストックトーキョーを運営する株式会社スマイルズ元社長の遠山正道さんがつけてくれました。コロナ禍でコワーキングスペースやシェアラウンジが増えましたが、私たちがその先駆けでしたね。」(伊藤さん)

様々なジャンル・テーマの本の取り揃えがありますが、本棚のレイアウトや本の並び替えはその本棚を担当するスタッフが行っているそうです。確かに一般的な書店に比べ、本それ自体や各テーマの世界観が色鮮やかに表れている印象があります。ここにもこだわりが隠れていました。一般的な書店は売れ残った本を出版社に返品するのが当たり前。しかし、文喫では返品を一切しません。これも本屋としては珍しいこと。売れた分の本を補充しているので、本の入れ替わりはあまり激しくありません。だからこそ、スタッフがそれぞれの関心や専門性を活かして本棚を自由にデザインすることができるのだそうです。

こだわりの選書サービスは1ヶ月待ちが当たり前で大人気

莫大な数の中から自分が読みたい本を見つけるのは大変なもの。文喫では、お客様の気分や状況に合った本をスタッフが選んでくれる「選書サービス」を提供しています。お客様はHP上で選書サービスを注文できます。注文が入ると選書担当のスタッフがお客様にヒアリングを行います。ヒアリングはWeb上で回答できるヒアリングシートを使っています。ヒアリングをもとに、スタッフが選書を行い、お客様は店頭、もしくは配送で本を受け取ることができます。

質問項目には職業や好きな作家、利用シーンなどがありますが、核となる質問は「選書のテーマ」です。普段はヒアリングシートをもとに選書しますが、必要な場合は、電話やメールのやりとりでよりお客様の真の希望に沿った本を提案できるようにしています。

「ヒアリングを続けていくと当初のテーマとまったく変わっていくこともあるんですよ。やりとりをしていくうちに違うテーマが掘り起こされることが多々あります。お悩み相談を受けるカウンセラーみたいになっていますね(笑)。スタッフによっては選書した本をお渡しするときに手紙を添えている人もいます。」(伊藤さん)

コロナ禍になって最初の半年は売上がかなり下がって経営状況が悪化。ところが、半年以降は過去最高益を達成したそう。おうち時間が増えたことで自宅にいて自分を見つめ直す人が増えました。その時にオンラインでできる選書サービスを利用して、読書で自分と向き合う人が急増。1ヶ月で数百件 の依頼が来て、対応が追いつかず、応募してから選書した本が届くまで最大で4ヶ月かかったこともありました。

選書本は、文喫での店頭受け取りか、指定の場所への配送の2パターンがあります。「店頭で受け取る際にはその本を購入しなくても大丈夫です。お客さまへ向けて選書した理由や本のおすすめポイントなどを記したしおりをつけているのですが、それだけ持って帰る方もいますね。配送の場合、本の購入代金をすでに頂いているので配送後の返品はできません。配送での選書サービスは熟練したスタッフが選書を担当しています」と伊藤さん。

本が好きすぎる個性溢れるスタッフが勢ぞろい

スタッフの採用は店長である伊藤さんが行っています。伊藤さんは普通ではないユニークな感性を持っている人材を採用するのだとか。
「私としては一般的な感覚を持っている人と感性で生きるタイプを半々で採用してバランスを取っているつもりですが、ユニークな人が多いですね。スタッフ同士で補完し合ってうまく回っていると思います。お店の運営はスタッフがやりたいことを優先しているので、意見は尊重しますね。棚の配置も任せています」とスタッフへの想いを話す伊藤さん。


スタッフは本が好きすぎて、暇さえあれば選書をしているそう。あまりにも選書サービスの申し込みが殺到したため受付を閉めていた際、開けなくていいと言っていても申し込みを受け付け選書サービスを進めるほどです。スタッフ同士で選書したり、プレゼントし合ったりもしています。

本マニアのスタッフがあなただけの1 冊を選書

店長の伊藤さんに本が好きすぎると言われていたスタッフの嶋田さん、吉田さん、足立さんに選書についてお話を伺いました。
皆さんそれぞれの想いをもって選書されているようです。


「ヒアリングシートを見て、普段何を読んでいるのか、苦手なジャンルは何か書かれていたら気にしていますね。お電話やメールで詳しく聞く際は、苦手な本の何がダメだったのかを聞きます。それ以外で気になるのはそのテーマを選んだ理由と選ぶに至った経緯ですね。お客様が言われたキーワードの他のテーマが含まれていると選書はまったく変わってきます。」(嶋田さん)


「自分がどういう本を読みたいかを言語化するのは難しい中、何とかヒアリングシートに書き出してくれているものだと思います。テーマがどういう風に表現されているのかを注意してみていますね。趣味や仕事などの情報に左右されて選書してしまう時があるんですけど、そんな時は一番大事なテーマを言葉どおりに受け取りたいなと思います。」(吉田さん)


「テーマを重視しています。お客様が書かれているテーマとその時の感情が結びついているのかを読み取るようにしています。言葉になっていないような感情なのか、言葉にしているけどテーマや実際に思っていることとずれが生じているのではないかなど掘り下げて考えるようにしていますね。」(足立さん)


ギフトで選書サービスを利用する方も多いそうです。プレゼントを贈る相手のことを思ってヒアリングシートを書き込みます。しおりに選書の理由が書かれているのでその方への想いが伝わるに違いありません。


読書好きのスタッフばかりが働いているのかと思いきや、音楽や演劇、モデルをやっている人などさまざま。本が好きではなくても働けるのが文喫の面白いところだと嶋田さんは話します。音楽や演劇、ファッション、デザインなどそれぞれのジャンルの本はあるので、本そのものが好きではなくても自分の好きなものの知識や経験が役立ちます。それはお客様も同様で、文喫は本好きじゃなくても楽しめる空間です。

初デートは文喫がおすすめ!その理由は?

文喫にいらっしゃるお客さまの層は平日と土日祝日でガラリと変わります。
「平日は仕事や勉強で利用する方が多いです。土日祝日は、仕事が休みの方が多く来店されますが、中には初めてのデートかも?と思わせられるようなカップルがいらっしゃることもあるんですよ。最初は何で?と思っていましたが、確かにそれには理由があるんですよね。ここなら映画館と一緒で会話をしなくてもいいじゃないですか。読書に没頭できるんですよ。しかも、相手の選ぶ本を見て趣向を知ることができます。さらに、知的でおしゃれな空間を知っている自分を演出できるので、滞在型の書店は初デートにぴったりなんですよ。」(伊藤さん)

文喫オープン当時は、ワーキングスペースとしての利用が多いと想定していたそう。フタを開けてみたら本を読んでいる人が多くなっています。コンセプトどおりのお店になっているのが嬉しいと伊藤さんは話します。定期会員制度があってそのサービスを利用している方も多いそうです。
「定期会員は平日利用し放題のプランです。以前小学生のお子さんが定期会員のサービスを使って受験勉強をしているお客様がいました。夜に親が迎えに来るんですよ。図書館のように無料の場所だと誰でも入って来られてしまいますが、入場料がかかるので客層もある程度担保されているし、スタッフの目があるので親御さんから見たら確かに安心だなと思いました」と伊藤さんは話します。


お子様から大人まで様々な方によい時間を過ごしていただける文喫六本木店。実は、海外のお客様も来店されるそう。画集や翻訳本を求めて来られるのかと思いきや、中でも観光客の方が多いということが分かりました。入場料を払って楽しむ本屋は世界的にも珍しいよう。海外の旅行メディアでの掲載をきっかけに、本屋という空間を味わいたい観光客の方々がいらしてくれるようになりました。


お店に入るとすぐに企画展のスペースがあります。このスペースは月1 回変わるそうですが、一等地の本屋の中に企画展スペースを置くというのも珍しいところ。本に興味がある人が減っているので、それ以外のフックも用意しておくことで来店動機を増やしているとのことです。

本のある空間をデザインしていく

文喫を運営する「株式会社ひらく」では、本屋の運営の他に、トークショーなどのイベント企画やライブラリーのプロデュース事業なども行っています。文喫で心ゆくまま本を楽しんでもらうことはもちろん、お店にこだわらずとも本のある空間を自由に創り出すことで、より多くのお客さまを巻き込んだ事業を展開しているのです。


例えばトークショーなどのイベント企画では、「当初は店舗でのリアル開催のイベントが多かったです。しかし、コロナ禍をきっかけに一変。オンライン開催を余儀なくされました。それが、新たなイベントのあり方を考える良いきっかけになったと思っています。」と伊藤さん。人気の作家さんが来ても会場のキャパシティで5050名までしか入れないということがあったのですが、配信プラットフォームを利用すると全国どこからでも観ることができて、多いと500500名ほどのお客様が参加することができます。より多くのお客さまとの接点がつくれるようになったことに、大きな手ごたえが感じられたそうです。


また、年々本屋は減ってしまっているものの、本がある空間を求める声はかなり増えているそうです。企業が社内にライブラリーを作ったり、行政が街のインフラの一つに本を活用したいという依頼があったりします。高層マンションの11フロアがライブラリーになっているところもあるそうです。


もちろん、文喫での空間づくりもお客さまにとって良いものになるよう、日々試行錯誤を続けています。例えば、「私たちは来店されるお客さまを増やすことよりも、お客さまがより長い時間くつろげる空間をつくることを大切にしています。店内がお客さまで満員になってしまうと、何となくそわそわしたり落ち着けなかったりしますよね。ですので、一程数に達した際は入場制限をかけています。すべて、一人ひとりのお客様がゆったりとした時間を過ごしていただくための心がけです。」(伊藤さん)


文喫六本木は本が好きな人が心ゆくまで満足できる本屋であることはもちろん、そこで仕事するスタッフとお客さまとがつながり合う、また、本のある場所を創ることでお客様に良い体験を届ける。お客様にとっても、店舗やスタッフにとっても嬉しいサービスの実現を追求する本屋であるといえるのではないでしょうか。