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青森から世界へ羽ばたく老舗酒蔵「八戸酒造」の歴史と革新

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企業名:八戸酒造株式会社
住所:〒031-0812 青森県八戸市湊町本町9番地
TEL: 0178-33-1171
URL:https://mutsu8000.com/

1775年創業の青森を代表する酒蔵である「八戸酒造」。「陸奥男山」や「陸奥八仙」といった日本酒が人気です。八戸酒造の専務取締役の駒井さんにこれまでの歴史を通じて大切にしてきたものと時代に合わせた新たな取り組みについて伺いました。

無知から目覚めて独自の味わいを目指す

もともとあった日本酒「八仙」は今とは全く異なる味わいでした。酒を造っても売れなければ蔵のタンクに売れない酒が溜まっていき、2年3年とただただ酒を寝かせているだけ。当時は思うような設備もなく人もギリギリで、酒を造る杜氏(とうじ)、蔵人(くらびと)は毎年11月~翌年4月頃まで岩手県花巻市から仕込みをしにきては新酒を造っていました。しかしながら、お酒が売れていないとタンク在庫をはかせなければなりません。そうなるとフレッシュな新酒だけを瓶詰して出荷はできず、タンクに寝ている熟成されたお酒と新酒をブレンドして瓶詰します。時には状態が良くないお酒を炭素ろ過し、色味も味わいも取ったものをブレンドし販売していました。私もそのお酒は好きではないし、自信を持って人に進めることができません。でも、商品としてあるからには好きでなくても売らなくてはいけませんでした。売れないと酒が溜まり品質が劣化していき、品質が劣化していくと美味しくなく状態のお酒が市場に出回りお客様の評判を落とし、ブランドが育たない。評判を落とすと更に売れない。

負のスパイラルに陥っていったのでした。

東京・多摩市の聖蹟桜ヶ丘に小山商店という地酒専門の酒屋があります。2002年に八戸出身の方が経営されている八王子にある「おんじき」さんから小山商店さんを紹介されて、八戸酒造の「八仙」を持っていったそうです。

「小山商店は、『十四代』や『飛露喜』といった人気の日本酒を世に送り出して有名にした酒屋のひとつです。その当時の八仙を飲んでもらった時に、こんな酒では東京で売れないというのが第一声。ショックでしたね。当時23歳で、酒蔵の息子というだけで、利き酒師の資格は持ち東京で営業まわりをしていましたが、自分が酒造りの現場に入ったことがなかったので、全国の酒蔵を回って現場最前線で酒蔵と交流している小山商店の小山社長(当時)に『八仙』のことや酒造りについて聞かれても全く答えられません。悔しい思いをしたのと同時に、その時、自分の作りたいお酒を作らないとダメだと言われたことがきっかけで青森の酒蔵に戻って酒造りを勉強することにしました。人気の日本酒を片っ端から買って来て、杜氏や蔵人とすべて利き酒をして、どんな味わいを目指していこうかというのを決めることから始めましたね」と駒井さんは話します。

「八仙」の誕生秘話

1998年に駒井さんの父である現代表8代目が「陸奥八仙」を立ち上げました。八仙は作りたくて作ったブランドではなく、酒造業存続のために立ち上げざるを得なくて立ち上げた新ブランドでした。元々は現在の酒蔵で駒井酒造店として「陸奥男山」を醸造していましたが、戦時中1944年(昭和19年)に国の政策で企業整備令が発令され、当時三戸郡内16の酒蔵が企業統合させられ八戸酒類が設立されました。内5蔵が残り、11蔵が廃業。その5蔵のひとつとして「陸奥男山」が残りました。5蔵それぞれ規模や蔵元の考え方の違いがありましたが、いったん売上が合同会社に吸収されて平等分配するという形態に。戦後にウィスキーやビールなど他の酒類も日本に入ってきてアルコール飲料も多種多様化してくると、日本酒は1973年(昭和48年)をピークに、売り上げ、製造数量が下降していきます。その中で「陸奥男山」含め努力をして売上を伸ばしていったところもありましたが、5蔵は平等分配なので黙っていても給料が入ることに怠慢がある時代が続いていたとのことです。

八戸酒造株式会社 駒井氏

「当時おかげさまで弊社の『男山』が売上を伸ばしていても、足の引っ張り合いのようなことがあり、なかなか思うような経営はできません。先代の代で合同会社を分離独立、または独立採算制をとらせようと試みたそうですが思うようにいかず、現代表の八代目に代替わりした時に、先代の遺志を継ぎ、合同会社である八戸酒類の傘下から抜けなくてはならないと考えて、1997年に父が身ひとつで分離独立。本来であれば、現酒蔵と『男山』ブランドを持って独立したかったのですが、それが叶わず現蔵と『男山』ブランドを合同会社に残して離れた形になります。そこで自分たちの新たなブランド『八仙』を立ち上げたわけです。自分の蔵と商標があるにも関わらず使えないので、新たに酒蔵を建てるか休業している酒蔵を借りて造るしかなく、旧八戸酒造が酒造りを休業しており代表が2〜3年通い詰めて蔵を貸していただくことができ、1997年に合同会社を抜けて、自社での酒造りをスタートして、1998年に『八仙』の誕生に至ります。」(駒井さん)

「八仙」を立ち上げてすぐは思うような売上をあげることができなかったそうです。そこで当時朝日酒造が全国組織で「久保田会」を作り、久保田を取り扱う特約店として勉強会を行うなどしっかりとブランドを認知拡大していく戦略が成功していたので、それに倣おうと「八仙会」という特約店会を立ち上げました。しかし、合同会社との「陸奥男山」ブランドの使用差し止めの裁判、蔵の明け渡しの裁判等で思うような形づくりができなく「八仙会」は解散へ。2009年に決着がつき、合同会社が現酒蔵から出ていき、酒蔵も「男山」ブランドも八戸酒造に戻って来ました。

時代に合わせたニーズの変化に対応していく

現在の酒蔵に戻ってから設備投資をし、衛生環境がよくなり酒質が向上したのはもちろんですが、販路が大きく変わったと駒井さんは話します。

「八仙ができた当時はほとんど地元でしか流通していませんでした。しかし、現酒蔵に移転してからは地元が4割、首都圏が4割、海外が約1割、北海道から九州の主要都市が1割と流通経路が拡大。売上も八仙を立ち上げた時に比べると約4倍と増えています。」(駒井さん)

昔から作られている日本酒なので伝統を大切にしつつも、時代に合わせて変化させていくことが重要です。日本酒のメインターゲットは40代以上の男性ですが、若い世代のアルコール離れもあるので、20代の若い人達や女性にも、さらにはワインユーザーの方など普段日本酒を飲まない方にも日本酒を知ってもらいたいと語る駒井さん。

約15年前から酒蔵でのライブイベントやアートイベント等も行っています。蔵見学も10年以上前から実施しており、蔵見学専門のガイドを養成し、現在は県内外、またインバウンドの見学者も増えております。

八戸酒造株式会社 ライブイベント アートイベント

「イベントや酒蔵見学をやり出したのは、もっと酒蔵を身近に感じて欲しい、有形文化財に指定された酒蔵を知って見てもらいたい、また日本酒に興味をもってもらいたいという思いからイベントや酒蔵見学を始めました。八戸市は人口約22万人の町ですが、酒蔵があるというのは知っていても実際に来たことがあるという人はほんと少ないです。

お酒を飲む方や日本酒が好きな方であれば『男山』『八仙』をご存知だと思いますが、近所にお住まいのご年配の方でも酒蔵の前を何十年と通っていますが、酒蔵にはいったことがない方がほとんどです。まずは地元の方に知っていただいて地元に誇れるものがあると知っていただきたい、また地元に酒蔵があることに誇りをもっていただきたいと思いました。

蔵でのイベントをした時も地元のご年配の方がたくさん見にきてくれ感動してくださったのが嬉しかったですね。先ずは地元の方々に直接肌で感じてもらい、そこから日本酒や酒蔵に興味を持っていただき、他県からいらっしゃる皆さまに我らの酒蔵だと自慢していただけると嬉しいですね。また、八仙や八戸酒造の酒蔵を求め全国各地、また世界から多くの観光客が八戸・青森を目指していらしていただくのが理想的だなと思っています。

八戸酒造株式会社 蔵イベント

日本酒そのものと酒蔵も合わせて魅力を発信していきたいです。地元の方の応援があって成り立っているので、社会貢献の意味合いもありますね。八仙を求めて青森に来てくれる方が増えれば交流人口も増えますし、地域興しにも繋がります。」(駒井さん)

若い世代にも日本酒の楽しさを伝えるために

りんごや桃、ヨーグルトなど地元の素材を使ったリキュールや果実酒を作って若い世代や日本酒が苦手な世代にもアプローチをしています。

「ヨーグルトのリキュール『ボンサーブ』は2022年1月に発売し、毎月限定数量を青森県内のみで販売しているのですが、非常に好評です。ヨーグルトリキュールが完成してプレスリリースを出した時に、ヨーグルトが皆さんの生活の身近な食材だったためにメディアの方や一般消費者のからの反応がとても良かったです。むつ市の斗南ヶ丘牧場とコラボした商品なのですが、味の想像がつきやすいからか人気ですね。女性からの支持が高いですが、男性からも好評です。」と駒井さん。ヨーグルトという身近なものから入って、日本酒が入っているんだと知ってもらうという新しい日本酒のルートが生まれています。

八戸酒造では若い世代が造る日本酒にも注力しています。八戸酒造の蔵人の平均年齢は30歳。若い蔵人達がコンセプトを考えて日本酒を造る「Mixseed Series(ミクシードシリーズ)」を毎年発売しています。

「Mixseed」は混ぜる・交わるを意味する「Mix」と、種を意味する「Seed」の造語。これから大きな芽を出す若き蔵人たちが紡ぎ出すお酒はこだわりが詰まった渾身の逸品。

2022年は社内公募で評価の高かった4人の蔵人の日本酒が登場。2022年は500mL容量のスリム瓶で、飲み切りやすいと反響が大きかったそうです。

酒米の田植え体験ができるイベントで日本酒をさらに身近に

八戸酒造では2008年から「がんじゃ自然酒倶楽部」という酒米の田植えから酒造り体験ができるイベントも開催。がんじゃ(蟹沢地区)で田植えをして自分たちで酒米を作り、その米で日本酒を作る体験ができます。蟹沢地区は八戸で最も水がキレイと言われている地域。休耕田がたくさんあり、その田んぼを再生したいという思いもあり、2008年頃に近所の人達を集めて30名くらいでスタートしました。1年の中で田植え、草取り、稲刈り、酒作り体験、新酒発表会の5つの体験ができます。実際に体験することで生産者の思いを知ることができ、収穫の喜びを感じ、搾りたてのお酒がボトリングされて完成したら愛着が湧くに違いありません。ラベルもオリジナルで作成することができます。

5つの体験の中で最も人が集まらなかったのが草取りだったので、酒蔵の駐車場でバーベキューも開催しました。草取りは6月で生ウニ漁が解禁され、その日水揚げされたウニを出したり、地元の牧場で育てた和牛を提供したりして、地元を堪能してもらって参加者の方は大満足だったようです。わざわざ来てもらっているので、ここでしかできない体験や八戸ひいては青森を知ってもらいたいと思ってやっていることが地域活性化にも貢献しています。

「2023年からは「がんじゃ自然酒倶楽部」改め、「メンバーシップ」を開始。八仙の田んぼにて農業体験、オンラインでの学び、そして会員限定酒が購入できる特典がつき、お米を育てる「体験」や、八仙の田んぼやお米について「学ぶ」ことを通じてよりお酒の理解を深め、さらにはメンバー同士や八戸酒造スタッフとの交流の輪が広がっていくことを願っております。」と駒井さん。

日本酒の副産物である酒粕を有効活用してSDGsを実践

日本酒造りで醪を搾ると必ず酒粕が副産物としてでます。もともと地元では甘酒や酒粕を味噌汁に入れたり、お鍋に入れたり、野菜や魚・お肉を粕漬けにしたりと普段から酒粕は身近な存在で、地元のスーパーに卸して小分けにして販売しています。

酒粕は美味しく栄養価が高いだけではなく、美容にもよく、酒粕を使った入浴剤が製品化できないかと誕生したのが「酒粕バスボム八仙美人の湯」です。青森県との共同事業で生まれたアイテムで美肌に効果的と人気です。

また、地元の洋菓子店や和菓子店に酒粕を卸して、酒粕ドーナツや酒粕クーベル等、お菓子の材料として使ってもらうという取り組みをしています。地元の牧場にいる乳牛の餌にも酒粕を混ぜ、将来的には酒粕を食べて育った和牛をブランド化しようと考えているそうです。酒粕の有効活用ができれば酒造側としてもありがたいですし、製品を買った方も喜びますし、地球環境にも優しいという三方良しを叶えることができます。

八戸酒造株式会社 駒井氏

日本酒の味わいやラベルデザインに込められた思いを伝えるのはもちろん、八戸酒造のように地域の食材や文化と合わせて魅力を伝えていくことで幅広い世代に日本酒を知ってもらうことに繋がります。歴史ある日本酒と時代のニーズに合わせてできた新しいお酒やコラボ商品にと今後の展開が楽しみです。こういった日本酒にまつわる活動が広がっていくと地球環境にも優しいとなればますます注目されていくでしょう。