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Industryアーティスト

MINX流・美容師の
働き方改革

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住所:東京都中央区銀座2-5-4 ファサード銀座2F/7F
TEL:03-5159-3838
URL:https://minx-net.co.jp/salon/ginza
OPEN: 月-金 11:00〜20:00
土日祝 10:00〜19:00

美容師という職業に対して「キツそう」という印象を持つ人も多いでしょう。朝から晩まで働いて、休みの日もモデル探しや練習、撮影などで忙しいというのがよくある美容師の働き方。そんな美容師の働き方に大きくメスを入れたのが人気ヘアサロン「MINX(ミンクス)」でした。ヘア業界大手のMINXが取り組んだ働き方改革とはどのようなものなのでしょうか。MINX銀座店エグゼクティブ・ディレクター兼取締役の菅野久幸さんにお話を伺いました。

〝生涯顧客〟として長く通ってもらえるヘアサロンに

都内に5店舗を構える人気のヘアサロンMINX。ヘアのトレンドを創り出し、業界を牽引する存在である「MINX」の企業理念は「お客様の文化になる」です。

これは〝生涯顧客〟という概念から来ています。

「お客様とともに年齢を重ねて、なくてはならない存在にMINXがなるということですね。例えば、お客様が高校生でMINXに来店されたとしたら、様々なライフイベントにMINXが携われることになります。お子さんが生まれて、親子2代でMINXに通っていただいている方もたくさんいます。ですので、幅広い年代の客層に合わせて、自分たちが求められる美容師でいるために何が必要なのかを常に模索しながら進んでいますね。」

幅広い年代に対応するというとどこに焦点を置くかがとても難しくなります。「銀座に3店舗ありますが、ブランディングを変えています。全体で平均値を取るというよりは店舗ごとにコンセプトが違うので、お客様に選んでいただくという形にすることで幅広いお客様に対してアプローチできると考えています。」と菅野さんは話します。

手荒れで辞めてしまわないように生み出した「手袋シャンプー」

業界の中でも先手で取り組んでいくことがMINXのスタンス。最近は技術、デザイン、商材だけではなく会社としてのあり方、業界としてのあり方にフォーカスしています。

「さまざまな取り組みをしていますが、大きい変化としては〝手袋シャンプー〟ですかね。基本的にお客様にシャンプーをするときは素手でやります。シャンプーは最初に厳しく教えられるもの。素手でお客様の頭を洗うことで手のひらから想いが技術として現れると教わりました。クオリティの高いシャンプーが美容師の第1歩になるので、素手で洗うことにこだわっていました。しかし、シャンプーそのものの質は上がっているのに、手荒れするスタッフは増加しており、美容師を続けたくても続けられないスタッフがたくさんいます。よく聞く話なのにこれまで業界で誰も改善に取り組んで来ませんでした。ドクターストップがかかったら、美容師ではなく受付スタッフになるということはありましたが、手荒れがよくなって、また美容師に戻ってもまた手荒れをしてとまた繰り返してしまいます。」

そもそも薬剤に手が触れない状態にしなくてはいけません。ただ手袋をはめるだけでは着脱が大変だったり、中に水が入ってしまったりという問題があります。そこで、MINXでは7年ほど前にシャンプーの時に薄いゴム手袋を外してはダメというルールを作りました。手荒れをしないスタッフも全員手袋を着用します。髪を乾かす際にも手袋を付けたままで良いことにしました。その後、真似したいということで全国からサロンが見学に来て、マニュアルの提供もしましたが、手袋シャンプーの創始者である菅野さんもどこまで他のサロンで浸透したのかは分からないそうです。

「スタッフからは、お客様は手袋を付けて洗って欲しくないと言っているという意見もありました。そういったお客様はMINXの方針とは合わないお客様なので失客しても仕方がないと考えています。手袋を付けて洗いたくないというスタッフにもMINXとは合わないので他のサロンで働いた方がいいと話しました。30年以上培ってきたシャンプーのマニュアルもすべて一新。そのくらい振り切ってやらないと新たな道を切り開くことはできません。浸透して定着するまで5年近くかかりました。これまで手袋でシャンプーをすることに関するクレームは一切ありません。」

お客様の頭皮に触れるものなので、手袋の素材も検討に検討を重ねました。

「素材が重要で、100%ニトリルでできた手袋を使用しています。ニトリルは手術などでも使われているものでゴムアレルギーが起きません。薄手で滑りがいいので手袋を付けて洗っていると気付いていないお客様もいると思います。」

アシスタントを一番休ませることで美容師の働きやすさを追求

他の一般企業よりも休みが取りにくかったり、産休・育休制度が不十分だったりと福利厚生に遅れを取っていたヘアサロン業界。巷でも働き方改革と言われていますが、スタッフの休みに関する部分も業界の中で革新的な動きをしていきます。

「一般企業と同じように産休・育休、フレックスタイムはもちろん導入しています。現在、週休3日で働いているスタッフがいたり、子どもがいる・いないにかかわらず時短で働いていたり、美容師も受付スタッフも副業OKにしていたりと働き方の自由度はかなり高いと思います。」

スタッフ育成にも力を入れており、新入社員は週休2日で4日間はサロンワーク、1日は朝から晩まで研修という流れを半年間行います。

「最初はやる気に満ちあふれているので、週2日の休みを練習に当てようとする熱心なスタッフもいますが、研修期間の半年間は休日出勤や朝練、外部講習への参加も禁止です。当サロンだとよく雑誌などの撮影があったりするんですが、それが休みの日の場合来てはいけないというルールになっています。研修期間が明けてもアシスタントだから早く来て鍵を開ける、最後に鍵を閉めて帰るというのはないですね。ちなみに昨日最後に鍵を閉めて店を出たのは私です(笑)。向上心の高いスタッフは休みに出勤して練習したいと言います。その気持ちはわかるんですけど、結局がんばりたい気持ちに体が付いて行かなくて体を壊してしまうケースが多いです。だから強制的に休ませて、休みが取りやすい空気を作りました。時間に関しては店長も1年目のスタッフもフラットなのがうちのスタイルです。ヘアサロンでこれを実践できているところは少ないと思います。」

長期で働けるような制度を整える

女性に特化した話ではないのですが、女性の方がライフスタイルに変化が多いことは確かです。30代を過ぎた女性スタッフからいろんな意見が出てきました。

「我々は優秀なヘアデザイナーを育成しなくてはいけない、業界に新しいトレンドを生み出さなくてはいけないというミッションがあります。そのために定期的に社内フォトコンテストやモデルを使ってクリエイティブなデザインを競う場を設けて、センスを磨くサポートをしています。

30歳を過ぎた女性スタイリストで、ある程度お客さんも抱えていると、デザイン性を高めようということにモチベーションが上がらないという声が出てきました。クリエイティブなデザインを追い求めないといけないなら辞めるというスタッフがいたことも事実です。業界にデザインを発信したいのではなく、今いるお客様と向き合うことが幸せと感じているそのスタッフは後輩の育成にも前向きでした。特例で社内のフォトコンテストやデザインコンテストには出なくていいからお客様に集中するように伝えると、もっとお客様と向き合おう、もっと後輩の面倒を見ようと考えるようになり、その特例のスタッフの売り上げが倍以上に増えたんです。働き方を変えてうまくいくのが分かりやすいのが美容室かもしれないですね。

男女限らず、お子さんがいるスタッフで子どもの送り迎えがあるから朝礼や朝の準備はいないというスタッフもいたりします。まだ子どもがいないスタッフも、子どもがいても働き続けることができるんだと感じているはずです。私自身も過去に、子どもが熱を出したからその日に予約が入っていたお客さんを全員キャンセルしたことがあります。」

スタッフ一人一人の個性を尊重しているのも長く働きやすいポイントかもしれません。例えば、外国人やハーフのスタッフは感覚としては外国人の感覚を持つ人が多いです。そうすると日本人によくある飲み会の文化や仕事以外でコミュニケーションを取るというのが理解できません。そこで、飲み会は強制ではなく任意参加にしています。

SDGsを推進するための取り組み

MINXでは美容室でどのようにSDGsを推進できるか、日常生活での行動がSDGsのどの項目に当てはまっているかを知るための勉強会を社内で開催しています。

「分かりやすいところでいうとオーガニックの商材を使っていることはSDGsのいくつかの項目に該当します。SDGsというと世界的な取り組みで遠い存在に感じてしまうのですが、身近なところにもたくさんSDSGsを推進できる行動があるんです。例えば、スターバックスコーヒーに行くだけでこの項目に該当する、マイボトルを持とうなどサロン内でのSDGsと身近にあるSDGsを知る勉強会を全スタッフに向けて開催しています。

また、MINX銀座店ではマイボトルをご持参いただいたお客様なら当店で施術をしていなくても無料で給水ができる『mymizu(マイミズ)』というサービスを提供しています。

MINXではSDGsの5番目にあるジェンダーを平等にという項目に力を入れており、「ブライドヘア」というものに参加しています。これはLGBTQのお客様やスタッフを積極的に受け入れて、好意的に捉えているということです。

「接客する上で気を付けるべきカウンセリングや実際の施術時のポイントを社内の勉強会で全スタッフに共有しています。LGBTQのお客様は“男性らしく・女性らしく”と言われたくないし、『こんなに切って大丈夫ですか?』のように性別から来る常識にも似た思い込みによる質問をされると相談しにくくなってしまいます。デザインの概念を振り切って、そのお客様がどんな印象になりたいかに合わせてデザインを提案していきます。」

MINXの理念を浸透させるオリジナルの習慣

MINXでは技術より前に人としての教育を大切にしています。内面の教育は入社前から行っているそうです。

「内定式で人として、美容師として、MINXの社員としてどうあるべきか、MINXが美容業界でどういう立ち位置を目指しているのか、MINXが大切にしているものは何なのかという本質的な話を2時間くらいしています。店長や役職のあるメンバーが一番、人としてというところを大事にして、スタッフに朝礼で話したりもしています。お客様はもちろんスタッフ同士も信頼関係で成り立っている仕事なので、人として魅力がないと企業理念の元となる“生涯顧客”なんて実現できません。」

MINXでは大切にしている考え方が書かれた「MINXフィロソフィー」という手帳のようなものがあります。それは全スタッフが入社からずっと持っていて、たまに見返したりするものです。MINXでは罰金的なものはないのですが、この手帳を失くすと始末書+罰金20,000円、再発行に6,000円かかるそうです。クビの次に厳しい罰則です。退社時には返却しなくてはなりません。それだけ大事なものということですね。

スタッフのことを一番に考えた結果、スタッフは働きやすくなってそれぞれの本領を発揮し、お客様にもいい接客ができるのでますますファンが増えます。ファンが増えることで売り上げが上がるので、みんなが幸せになれる循環が生まれています。新たな制度を取り入れること、変化することはかなりの努力が付き物です。でも、その英断でうまくいくのはMINXの理念がスタッフ全員に浸透しているからでしょう。提供しているサービスにどんな思いが込められているかが大切です。

美容室自体が多様化して、働き方の自由度が高まっていく中、MINXの立ち位置をより明確にしていく必要があると菅野さんは話します。デジタル化・オンライン化が進む中で、リアルな育成の必要性を伝えていかなければなりません。内面、技術面ともにサロンワークを通じて次世代の育成にこだわっていくことで技術はもちろん人としても魅力的な美容師をたくさん輩出していきたいというのがMINXの現在のミッションです。